大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(う)706号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇日を原判決の刑に算入する。

理由

一  本件控訴の趣意は、弁護人矢田部三郎作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

二  控訴趣意中、事実誤認ないし法令適用の誤りの主張について

論旨は、原判示第一及び第二の各罪については、被告人は自首したものであるから、これらにつき自首減軽をしなかった原判決は、事実を誤認しひいては法令の適用を誤ったものである、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を調査して検討すると、自首は裁量的減軽事由であるから、自首減軽は、これをしない場合の処断刑の下限よりも軽い刑で処断すべき場合に限ってなすのを相当とするところ、被告人は、原判示第一及び第二の各建造物侵入・窃盗罪のほか、原判示第三の建造物侵入罪も犯しており、これらは刑法四五条前段の併合罪の関係にあり、原判示第三の罪について懲役刑を選択する以上、同法四七条の規定に従って一個の刑を科すべきであるが、仮に所論のように原判示第一及び第二の各罪につき自首減軽をして、これらについて短期の二分の一を減じても、被告人に対しては、これらの罪と併合罪の関係に立つ原判示第三の罪の法定刑の短期(これは、原判示第一及び第二の各罪につき自首減軽をしない場合の刑の短期と同一である。)よりも軽い刑を宣告することはできないのであるから、結局、本件は、自首減軽をしない場合の短期よりも軽い刑で処断すること自体が許されない場合であって、したがって、原判示第一及び第二の各罪については、たとえ自首した事実があっても、自首減軽をすることはできないものといわなければならない。所論の事実誤認があったとしても、それは法令適用の誤りをきたすものではなく、したがってまた、判決に影響を及ぼすものでもない。論旨は理由がない(なお、付言するに、自首減軽をするか否かは裁判所の裁量にゆだねられているところ、本件は後記のとおりの事案であって、仮に所論のように原判示第一及び第二の各事実について自首が成立するとしても、その犯情に照らし、これらの罪につき自首減軽するのを相当とするものとは到底認められない。)。

三  控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、原判決の量刑不当を主張するので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討すると、本件は学校や工事事務所内に侵入して金品を窃取した事件二件及び金品窃取の目的で工事作業所の敷地内に侵入した事件一件の事案であるが、被告人は、平成五年一二月に窃盗、同未遂の罪により懲役一年六月・四年間保護観察付き執行猶予に処せられ、現にその執行猶予期間中であるのに、保護観察から離脱したまま、職場からも飛び出し、金銭に窮して立て続けに本件各犯行に及んだものであり、警報機の配線を切断する等の手口の悪質性等にもかんがみると、被告人の刑事責任は軽くみることができないといわなければならない。そうすると、被告人が本件各犯行を進んで自供していることや、盗品のほとんどが還付されていることのほか、被告人が反省していること、今後は従前の勤務先で再度勤務する予定であることその他所論指摘の情状を斟酌しても、被告人を懲役一年六月に処した原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

四  よって、刑訴法三九六条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 川合昌幸 裁判官 鹿野伸二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例